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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)25号 判決

原告 浅見延之亟

被告 豊島税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外三名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

まず、本訴の適否について判断する。

国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあつては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ提起することができないことは、国税通則法第八七条、行政事件訴訟法第八条に照らし明らかであるところ、原告は本件について法定の不服申立て期間内である昭和三八年一〇月一〇日被告に対し口頭で異議申立てをした旨主張するけれども、証人野田進の証言によつても、右同日頃税理士で原告の代理人野田進が豊島税務署において係官に対し、被告の本件処分についての不服申立手段を相談した事実を認めることができるに過ぎず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。そればかりでなく行政不服審査法第九条第一項、第一五条によると異議申立ては所定の事項を記載した書面をもつてしなけれはならないことが明らかであるから、仮りに、原告主張のような異議申立てがあつたとしてもこれを右同法にいう異議申立てと解することはできない。

原告は、不服申立期間について被告庁の係官から猶予の承諾を得たうえ、書面によつて、口頭による異議申立ての瑕疵を補正した旨主張し、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証(申述書、書簡、所得税更正決定事件の補充陳述書、陳情書)によると、原告は本人、または代理人名義をもつて、被告の本件更正処分について昭和三八年一一月、同年一二月二三日、昭和三九年一月三〇日にそれぞれ書面で不服の事由を述べていることを認めることができるが、課税官庁において任意に法定の不服申立期間を猶予できるかどうかの点はしばらくおいても、右のとおり口頭による異議申立てのあつた事実すらも認められないのであるからこの主張は採用の限りでない。なお、原告は、被告庁の係官が本件更正処分に対する不服事由について現実に調査を開始していたから、原告の異議申立ては受理されていたものとみるべきであると主張するが、証人蛯名達也の証言によれば、課税官庁においては納税者に対する「サービス」のため、たとえ、課税処分について不服申立て期間が徒過しても、不服のある納税者のため不服事由について調査をすること、同証人が原告方を訪れたのは、原告の異議申立に対する調査としてではなく、原告から提出された陳情書(甲第四号証)の訴外山洋電気株式会社の記名部分に疑問があつて、これを確かめるためであつたことが認められるから、この主張も理由がない。

原告は、仮りに、原告の異議申立てが不適法であるとすると被告において行政不服審査法第二一条に基づき申立人に対し相当の期間を定めて補正を命ずべきであるのにこれをしないし、また異議申立ての却下もしていないから、訴訟の前審としての手続に欠けるところはないと主張するが、仮りに、原告主張のような口頭による異議申立てがあつたとしても、その不適法は補正することができないものであるから、この主張も理由がない。

以上のとおり、原告は、所定の異議申立てを経ることなく、本訴を提起したものであり、そのけん欠は補正できないものであるから、本訴を不適法として却下し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 浜秀和 町田顕)

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